幻影の書 ポール・オースター
妻と二人の子供を飛行機事故で失うという悲しみに襲われた大学教授デイヴィッド・ジンマー。
ある夜テレビでサイレント・ムービーを見ているうちに事故以来初めて笑ったことに気づく。それはヘクター・マンという1920年代後半にサイレントコメディ映画分野でほんの一瞬だけ活躍した俳優兼監督によるものであった。それから憑かれたようにデヴィッドはヘクター・マンを調べ始める。ヘクターは12本の映画を遺してある時忽然と姿を消した。映画史においても長く忘れられた存在であった。デヴィッドは現存するヘクター・マンの映画をすべて見るために世界を回りやがて彼に関する本を出版する。
ある日ヘクターの夫人と名乗る女性から、ヘクターは生きている、一度お目にかかりたい、という手紙がデヴィッドの元へ届く。当初は信じることができず、取り合わなかったデヴィッドであった。しかしアロマという女性の訪問をきっかけに彼女とヘクターに会うために旅に出る。道中アロマから聞かされたのは驚くべきヘクター失踪の真相であった。
ヘクター失踪に関しては当時様々な憶測がなされた。映画製作に行き詰まったのであろうというのがおおかたの見方だった。たしかに彼の資金的後援者であるシーモア・ハントは事業に失敗して自殺した。
しかしヘクターは独自に次回作への準備をすすめていて資金繰りに問題はなかった。
その頃彼は映画誌記者であるブリジット・オファロンと恋仲になっていた。彼女は当然ヘクターが自分と結婚するものと信じていた。しかしヘクターは新作映画の出演女優ドローレス・セントジョンと恋に落ち、彼女との結婚を選択する。
ドローレスを殺そうと彼女の部屋を訪ねたブリジットは逆に左目をドローレスに撃ち抜かれ絶命する。ブリジットのお腹の中にはヘクターとの子供がいた。ヘクターは子供を宿したままのブリジットを山中に埋め、映画界は勿論のこと、世間から姿を消す。
そして現在の地に至るまでの驚くべきアメリカン・ジャーニーの軌跡がさらにアロマから語られる・・・・・
デヴィッドはヘクターに邂逅する。彼は幻ではなく実在した。いくつかの言葉を交わし、また翌日深く話をしようと辞去したデヴィッドであったかその夜またしても思いがけない事態へと物語は展開していく。
これぞストーリー。大胆で驚くべき展開。にもかかわらず、それが荒唐無稽に感じないのは登場人物たちが作者によって深く造型されているからだ。すべての行動に理由がある。より現実化された不条理劇。
このような面白い小説が日本の書店に並ぶまでアメリカでの出版から6年もかかっている。ああ!
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